一方、このプロジェクトで最も難航したのが、商品名やパッケージデザイン、味の表現方法など、味づくり以外の部分における社内の意見調整だったと山川は振り返る。
「カップスリーブを巻いたカフェのコーヒーをイメージしたデザインも、モッチッチという名前も、従来のカップ焼そばの世界観とは全く異なるものだったので、社内では『これで本当に消費者に伝わるのか?』という心配の声や反対意見も多かったです。そういう意見を聞くと気持ちがブレそうになるのですが、消費者調査でポジティブな反応も出ていたし、自分たちがやっていることを信じるしかない。このプロジェクトを通して、自分の信念を貫く難しさと大切さを学びました」。
サンプルが完成した際には、山川ら商品開発とマーケティングのメンバーが全国の営業所に足を運び、営業の商談に同行して生麺の焼そばと食べ比べてもらいながら、商品の魅力を小売店に直接伝えた。「麺が違う」「カップ焼そばにはない斬新なデザイン」などと好意的に捉えてくれるバイヤーも多く、2017年6月の発売当初には、各地の小売店で消費者の目につきやすい主通路に面するエンド棚に陳列された。狙い通り、購入者は20〜40代の女性が中心だったが、高齢層の購入者も多く、それはうれしい誤算だった。
今や通常の棚に置かれる人気の定番商品となり、「新しい商品で新しい市場を創り出す」というプロジェクトは大成功で幕を閉じた。
「私自身、カップ焼そばを担当したのも、1からブランドを立ち上げたのも初めてで、とにかくすべてが大変でしたが、その分、楽しいことも多かった。結果が出たことで自信もつきました。デザインや名前などをこだわりぬいたからこそ、今回の成功があったと思います。また次、新しいブランドを立ち上げるときには、今回以上の大きな成功を目指しますよ」。
山川らに立ち止まっている暇はない。一つの成功に驕ることなく、皆、次なる目標に向かってすでに動き出している。